晴釣雨釣 心の別天地 内田進
  連載 第10回
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 ルアーやフライを使用した、いわゆる疑似餌釣りがスポーツフィッシングとして定着している。生エサを使わない釣りなので、手が汚れず、臭くもなく、子供達や女性にも人気がある。エサ釣りのスタイルと異なり、ファッション的にも満足できるし、カッコいい。そして、お洒落ということのようだ。
 だから、エサ釣りを一度も経験したことがない、というルアー・フライフィッシングの愛好家が意外に多いらしい。さらに面白いことに、自分で釣った魚をかわいそう、ぬるぬるしてる、トゲがある、などを理由に触れることができない、という話を聞いたことがあった。そのくせ中には、したり顔でエサ釣りを軽蔑したりする人間もいるらしいのだ。何か少し変だゾ、と思うのだ……。
 いうまでもなく、魚が自分の棲息している環境の中で、エサとして虫や小魚などのライブベイトに食いつくということは、エコサイクル環境の中の一部として必然であるのだ。
 お洒落大好きのカッコいいルアー・フライフィッシング愛好家の皆さんは、一度、思い切ってエサ釣りを試してみてはいかがでしょうか。そうすれば、きっとあなた達の釣りに、何か新たな啓示を与えてくれるはずなのです。生きとし生けるもの達を相手にすることは、どういうことなのかということが……。
 そうなのだ。以前は自然環境そのものが人々のすぐ手のとどくところにあり、雑木林や山里、小川などで遊ぶことが誰でもできた。子供達にとっては、デジタルのゲーム機や塾通いではなく、バケツやアミ、釣り竿などが必須アイテムだった。小川や池での魚とりが、やがて魚釣りに変わっていくのは必然で、その中で生きもの達の命の尊さを学ぶことができた。そう考えると、魚に触れないルアー・フライマンがいても不思議ではないかもしれない。
 さて、そこで今回はエビでタイを釣るがごとく、釣ったワカサギを餌にマスを釣る話である。ふだん険しい渓谷に降りてばかりなので、ゆったりとした釣りもまた楽しいのだ。
 ワカサギ釣りの風景というと誰でもすぐ思い浮かぶのは、北海道や東北地方の氷結した湖で、防寒服を着込んで足元に用意しておいた火バチで暖を取りながら、氷に穴を開けての「穴釣り」だろう。これはこれで一つの世界があると思うのだが、何せ真冬の、それも氷上で、となるので当然、寒いのだ。
 しかし、日本は細長く広い。意外なことに神奈川県・箱根の芦ノ湖では、真夏の7、8月頃からワカサギ釣りを楽しむことができる。遊漁期間は湖のすべての釣りが禁漁となる11月末日までで、4ヵ月以上もの長期間にわたってワカサギ釣りができる。これは釣り人にとって本当にうれしい。
 8月、連日熱帯夜が続く温室のような都心を後にして、東名高速道を2時間ほど走ると、芦ノ湖の湖岸に降り立てる。涼しい所にいっときの間移り、暑さを避ける。下界のよどんだ空気と異なり、早朝の山上湖を渡る風が実に心地良い。
 湖岸にあるボート屋さんに、あらかじめ予約しておいた船外機つきの5、6人乗り大型ボートに、各自の釣具やらクーラー、お弁当などをつみ込みながら、桟橋のボート係のお兄さんにワカサギのポイントやタナ、仕掛けのことなど、あれこれ聞いて、その日の情報を入手する。お兄さんは適当に、そして、ぶっきらぼうに何台かのボートが浮かんでいる方向を指さし、そのあたりの水深10メートルくらいのところが良いのだと教えてくれる。何のことはない、ワカサギ釣りを始めているボートの近くに行って釣りをすれば良いわけで、しごく単純明快なのだ。
 さて、ここでもっとも注意しなければならないことは、釣りのメンバーは家族、あるいは本当に気心知れた友人に限るということだ。一日中、同じボートに乗り合わせる、いわゆる呉越同舟となるので、仕事での人間関係と、その利害を持ち込む可能性のある人物は絶対に誘ってはならない、ということである。
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 ワカサギ釣りは、2メートルほどの短くやわらかい竿を使う。仕掛けは竿と同じくらいの長さのみち糸に枝バリが10本ほどついていて、いちばん下にオモリがついている。最近はハリにエサをつけず、カラバリで釣るのが主流だ。リールからラインを出して、オモリが底についたらラインを張って、オモリで底をたたくようにすると、やがてプルプルと小さなワカサギの魚信が伝わってくる。次から次へとワカサギが釣れ出す。誰でも簡単に釣れてしまうのです。4、5人で釣れば、一時間たらずで百匹くらいは、すぐに釣れてしまう。
 さて、ここからが本番のマス釣りとなる。岬の風浦の静かな所の、あらかじめ狙っていたポイントの水深20メートルほどのところに静かにアンカーを入れ、ボートを固定し、先ほどのワカサギを背がけにして投入する。
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 ロッドは9フィート5番くらいの、やわらかめのフライロッドを使用する。フライラインが巻き込んであるリールに、ナイロン糸2号を30メートルくらい巻き、ハリスは1メートル、オモリは2号のナツメ、ハリはセイゴバリだ。春先と違って、真夏のマスは深場に降りているので、水深15メートルくらいの所に狙いを定める。置き竿をして、後はボートの上で昼寝でもしていれば良いのだ……。
 やがて、竿先がかすかにゆれ出し、突然リールがジィージィーと鳴り、ラインがリールから出てゆく。ロッドが弓のようにたわんで、マスが走る。いっときすると、青黒く透明な水中にニジマスが姿を現わす。太陽の光に魚体が宝石のように輝き、美しい。思わずため息がもれるのだ。
 ハリを飲み込んでしまったマスはキープして、それ以外のマスはリリースする。一人で3、4匹も釣ればもう十分なのだ。
 さて、本当の楽しみはこの後にある。昼近くになったら湖畔の砂浜にボートをつけ、真夏の太陽の陽射しをさえぎる梢の下の木陰で、ゆっくりとランチを楽しむのだ。クーラーからキンキンに冷えたビール、そしてワイン。そしてローストビーフのサンドイッチに、前夜仕込んでおいたソーメンなんかも出てきて、ただただ至福。気の合った仲間とのたわいのない話で、木陰の祝宴はもりあがる。
 樹木の葉が湖を渡る風にゆれ、カナカナとヒグラシが、どこかで鳴いている。砂浜に寝ころぶと、打ち寄せる波がヒタヒタと足元を洗う。ここは心の別 天地なのだ……。


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筆者のお嬢さんが釣り上げた芦ノ湖の巨大ニジマス。68cm、4kg。こんなのが釣れるのです。
●うちだ・すすむ
1947年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術科卒業。
日本における魚のイラストレーションの第一人者。
美術出版社やグラフィック社から画集を出版。
アメリカ・モンタナ州にあるフライフィッシング博物館に、日本人で唯一の作品が所蔵されている。
平成11年、NHK BS放送で西山徹氏との九頭竜川での
サクラマス名人対決が放送され話題となる。
魚を描くには、釣る!! 見る!! さわる!!
が一番大切だと思っている。
東京イラストレーターズソサエティ(TIS)会員。






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