21世紀を展望する三菱ふそうセミナー
写真 三和総合研究所 特別顧問 原田 和明
●プロフィール
昭和6年生。東京大学経済学部卒業。三和銀行取締役調査部長、三和総合研究所取締役理事長等を経て、平成12年現職に就任。日経連アドバイザー、国際商業銀行エコノミスト会議メンバー、マスコミの経済解説などの対外活動でも活躍。著書『「全治5年」の日本経済』『銀行10年後の戦略』などがある。
     


懸念材料は残っているが
明るさを増した世界経済

 今日の世界は、お金や情報が国境を越えて瞬時に移動するグローバリゼーションの時代を迎えています。そうなると、世界のローカルな地域で起きた問題でも発火点となって、世界全体が大混乱に陥ることがあります。世界の隅々まで目を向けておかないと、日本の景気が今後どうなるかは展望できません。
 幸いにも世界経済は、かなり明るさを増してきました。OECDの経済見通しでは、各国の成長率はいずれも半年前の予測値を上方修正しています。ただし、先進国のなかで日本だけが際立って低い成長率であることは、気になるところです。
 米国の実物経済は引き続き好調です。米国はこの二、三カ月の間にインフレ警戒型の金利政策に切り換え、その効果が徐々に出始めています。当分、安定成長を持続する可能性が高いでしょう。
 確かに米国経済にも懸念材料はあります。仮に中南米に金融経済不安が起きれば、米国が受ける打撃は相当なものになります。また、米国の株価水準は理論値よりもかなり高く、近い将来、株が暴落すると見る向きもあります。しかし、この十年間、インフレなき完全雇用のなかで安定成長を続ける米国の実物経済は順調そのもので、株価が大幅に下落する公算は極めて小さい。多少の調整局面はあるにしても、世界経済の足を引っ張るような事態が起きることは、現状では考えにくいと見ています。
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 欧州経済も明るさを増し、今年は平均で三・五%程度の成長が期待できそうです。しかし、失業率は依然高く、ユーロはドルに対してかなり格差をつけられています。欧州はまだ構造的な問題から抜け出せず、景気は改善していますが、米国のようなダイナミックな成長の姿にはなっていません。
 アジアは急速に景気が回復してきました。アジアの国々は貯蓄率が非常に高く、労働者の教育水準も相対的に高い。このように、成長するための基本条件を維持しているので、再び世界の成長センターになる可能性は極めて高いと思います。
 特に中国は、ここにきてだいぶ明るさが出てきました。人民元が切り下げられたりすると、世界経済に与える影響は小さくありませんが、現在は大幅な切り下げを行なう可能性はほとんどなくなったと見ています。

経済対策の効果が現われて
緩やかな安定成長路線へ

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 私は、これからの日本の景気展望として、三つのシナリオを想定しています。
 その一つは、グローバリゼーション下の伝染効果によって世界同時不況が起きる「危機のシナリオ」です。その震源地として考えられるのは、米国の株式の暴落であり、もう一つは、日本の景気が再び下降することです。いずれも、その可能性は小さいとはいえ、無視することはできません。
 二つめは、米国の成長が減速して日本経済が再び低迷するというシナリオです。しかし、今年の米国の成長率は四%強まで行きそうですから、この可能性もそれほど高くはありません。
 最も現実性があるのは、日本が緩やかな安定成長路線に乗るというシナリオです。これにはいくつかの条件があります。一つは、米国経済が安定成長路線を続けること。この可能性は極めて高いでしょう。二つめは、日本の金融システムの信頼持続です。一昨年秋に起きた金融破綻は、その後、金融再生法の成立と巨額の資本注入などにより、どうにか安定性を取り戻すことができました。その意味で、日本の金融システムの信頼性は確立され、今後も維持できると考えています。三つめの条件は、為替相場の安定です。今年は比較的変動幅は小さく、一ドル=百円を割るような超円高や百十円を超える円安は考えにくい情勢です。
 第四の条件は、必要な場合、適切な景気対策が打ち出されるかどうかです。昨年末に政府は総合経済対策として、約七兆円の公共投資を発動しました。この効果 はこれから出てきます。そうなると、夏場以降に日本経済が再下降する可能性は、非常に小さくなります。
 私は、この総合経済対策を高く評価しています。従来にはない革新的な内容を含んでいるからです。
 たとえば、中小企業支援としてエンジェル税制の拡充と事業承継税制の是正を盛り込みました。さらに、長期的な政策としてミレニアムプロジェクトの推進を掲げています。そこには、二〇〇三年から全国小中学校でのインターネット接続を実施するとか、光ファイバー網を全国の家庭に広げて情報インフラを早急に確立させるとか、具体的な内容が示されています。
 もの足りない部分もありますが、かなりの政策がこの総合経済対策に盛り込まれ、日本経済を支えると確信しています。その意味で、これからの日本経済は大幅な政策変更がない限り、一・五から二%の安定成長路線に乗る可能性が高いと見ています。

産業革命に等しい激変期
生き残りのカギはIT革命

 二十一世紀に日本が再び世界の経済大国になるためには、構造改革をあえて実行するという覚悟が必要になります。激しい痛みを伴う大手術ですが、これをやらないと日本経済の再生はありません。
 日本再生は、極論すれば、IT革命を本格的に軌道に乗せることができるかどうかにかかっています。IT革命は、設備投資の増大、生産性の向上、技術進歩による成長の下支え、などの効果が期待できます。米国がそうでした。一九九二年に情報スーパーハイウェイ構想が打ち出され、これに共感した企業がIT革命を積極的に推進したことを契機に、米国の設備投資は今日まで毎年平均一〇%も伸び続けています。
 今後の経営環境は、二百年前の産業革命に匹敵するような激変期を迎えます。
 たとえば、金融ビッグバンが進展することで、企業と金融機関の関係はどうなるのか。従来の系列がかなり崩れてきているなかで、おそらく、信頼関係に基づきながらも緊張関係を持った形に変わると思います。
 また、国際会計基準の受け入れが来年四月から本格化するようになると、海外からの投資が活発になり、日本の企業に対する敵対的な買収が頻繁に起きます。これを防ぐためには、収益率を上げて常に株価に反映させるような経営をするしかありません。それだけ経営者の責任が重くなります。
 そして、IT革命がミクロの面でどういう変化をもたらすかが重要なポイントです。これには三つの側面があります。
 一つは、企業自体がIT化を進めることで生産性を飛躍的に向上させ、ライバル企業に対して優位に立つことです。
 二つめは、携帯電話(iモード)が象徴するように、IT革命は爆発的に新しい商品を登場させます。こうした商品開発への取り組みも情報化対応の一つです。自動車もますます電子化、IT武装が推進されるでしょう。
 そして、三つめは情報コストの劇的な低下によって、ビジネスのやり方が大きく変わることです。情報コストが安くなったために、インターネットを自由に使うことができます。米国は限りなく情報コストをゼロに近づけ、新しい動きを生みだしました。パソコンなどネット販売による中抜きの直販体制がそうです。そこには既製品と注文品の格差がなく、自分のニーズにあったものを安価でしかも迅速に手に入れるシステムが確立されています。
 IT革命が企業にもたらす影響はものすごいものがあります。それは必ずしもプラスの面とは限りません。情報化に乗り遅れるようなことがあると、ライバル企業に差をつけられ、マイナス面も大きいのです。みなさまの企業が適切に対応して、二十一世紀に洋々たる発展をとげ、勝ち組になることを大いに期待しています。

写真 ここに掲載したものは、平成十二年六月二十一日京都で行なわれた
「三菱ふそうセミナー」を抜粋したものです。



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