Sports Essay Seijyun's Eye─21外資の力で潤うプレミアリーグ現在のプレミアリーグでは、外国人オーナーの存在は珍しくない。

 
二宮清純 スポーツジャーナリスト

イングランド・プレミアリーグのリヴァプールがクラブ史上最高額(約66億円)の
移籍金でスペイン代表FWフェルナンド・トーレスを手に入れた。トーレスは
「この金額は、自分が活躍するということの確信の表れ、自分もそれに応えたい」と
入団会見で活躍を約束。この補強が3年ぶりのチャンピオンズリーグ優勝、
18年ぶりのリーグ優勝を目指すクラブの助けとなることは間違いない。
しかし、今まで地味な印象があったリヴァプールが、なぜ急にトーレスのような
ビッグネームを獲得できたのか?



端正なルックスはベッカムにも負けない

 フランスが誇る世界的なストライカー、ティエリ・アンリが去ったサッカーの母国に若き点取り屋がやってくる。
 スペイン代表FWフェルナンド・トーレスだ。イングランド・プレミアリーグのリヴァプールがスペインリーグのアトレティコ・マドリードからクラブ史上最高額の移籍金4000万ユーロ(約66億円)で引き抜いた。
 トーレスは“エル・ニーニョ(神の子)”の異名を持つスペイン代表の若きエース。184センチの長身ながら高いテクニックを有する万能型のストライカーだ。
 03年に19歳の若さでA代表入りを果たすと、その後、04年の欧州選手権、06年のドイツW杯と確実にキャリアを積み上げてきた。
 まだ23歳だから今後の成長も見込める。端正なルックスはデビッド・ベッカムに勝るとも劣らない。人気も出るだろう。
 トーレスの加入は3年ぶりのチャンピオンズリーグ制覇、18年ぶりのリーグ優勝を目指すリヴァプールにとって、これ以上ないビッグニュースだ。一番喜んでいるのはサポーターよりもトーレス獲得を熱望したスペイン人指揮官ラファエル・ベニテスだろう。
 これまでリヴァプールは伝統がありながらマンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、アーセナルらのライバルチームと比べると、どこか地味な印象がぬぐえなかった。
 生え抜きのスティーブン・ジェラードはワールドクラスのMFだが、財政的な理由で世界のビッグネームを獲得することには消極的だった。
 そんなリヴァプールが派手な獲得合戦を展開したのには理由がある。
 今年2月、クラブは米国人実業家のジョージ・ジレット、トム・ヒックスの両氏に約4億7000万ポンド(約1140億円)で買収されてしまったのだ。
 新経営陣はクラブの負債約4480万ポンド(約108億円)、6万人を収容できる新スタジアムの建設費2億1500万ポンド(約521億円)を引き受けた上、今回のトーレスの獲得資金まで用意したという。あるところにはあるものだ。
 現在のプレミアリーグでは外国人がオーナーを務めるクラブが珍しくない。03年にロシア人大富豪ロマン・アブラモビッチ氏が買収したチェルシー、05年に米国人実業家マルコム・グレイザー氏が買い取ったマンチェスター・ユナイテッドをはじめ、その数は8クラブにのぼる。プレミアリーグのチーム数(20)の半分に迫ろうとしている。
 7月の初旬にはクーデターで追放された前タイ首相のタクシン氏によって名門クラブのマンチェスター・シティが買収されたばかりだ。


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スペイン代表FWとして活躍したフェルナンド・トーレス(ドイツW杯)は、神の子の異名を持つ若きストライカーだ。
(C) 日刊スポーツ新聞社


外資に頼るプレミアリーグ
 外国人オーナーの中でもひときわ異彩を放つのがチェルシーを所有するアブラモビッチ氏である。
 ロシアの石油王である同氏は01年、100億円以上の負債を抱え、倒産の危機にあったクラブを買収すると、すぐさま200億円を超える巨額の補強費を投入。アルゼンチン代表のFWクレスポ、MFベロン、フランス代表のMFマケレレをはじめ、10人もの選手を獲得してチーム強化を図った。
 03〜04シーズンこそ2位に終わったが、名将ジョゼ・モウリーニョを招聘した翌シーズンは50年ぶりのリーグ優勝を果たした。
 オーナーとなって間もない頃、買収の動機を訊かれたアブラモビッチ氏は「フットボールの世界最高のクラブを所有するのが夢だ。短い人生だから、稼いだカネは使うよ」と答えた。
 今や世界屈指の強豪クラブとなったチェルシーの姿を見れば、その言葉にウソはなかったということだろう。
 一方でマンチェスター・ユナイテッドを05年に買い取ったグレイザー氏にアブラモビッチ氏のようなフットボールへの情熱があるかと聞かれれば、首をかしげざるをえない。
 グレイザー氏は買収に使った総額7億9000万ポンド(約1020億円)の70%を、クラブの資産を担保にした借入金で補てんしている。マンUの資産価値に目をつけたのはさすがだが、どんなチームをつくりたいのか、どんなクラブ経営をしたいのかは未だに霧の中だ。
 05〜06シーズンの欧州チャンピオンズリーグで11年ぶりのグループリーグ敗退という屈辱を味わったのも、元はといえば明確な強化方針が欠如していたからではないのか。それもあってサポーターたちのグレイザー評はすこぶる悪い。
 いずれにしても、現在のプレミアリーグが外資なしで立ち行かないことは否定できない事実である。06〜07シーズンのチャンピオンズリーグでは4強にマンU、チェルシー、リヴァプールとイングランド勢が3つも残った。これは同国史上初めてのことである。
 また、会計事務所の英デロイト社の発表によれば、プレミアリーグは05〜06シーズン、欧州史上最高の約3249億円の収益を記録したという。セリエA(イタリア)やスペインリーグに比べると影の薄かったプレミアリーグが再び欧州のトップリーグに返り咲いたと見ていいだろう。
 数々の問題点を抱えながらも前進していくのが資本主義経済下のサッカーリーグである。多少のリスクを負わないことにはリターンは得られない。
 新自由主義を旗印にイギリスを改革したサッチャー元首相は国有企業の民営化や規制緩和と並行して、外資の導入にも積極的だった。プレミアリーグはその果実を手にしているともいえる。
 いずれJリーグも株式上場、外資導入の道は避けられないのではないか。国際競争力を失ったサッカーリーグが繁栄した試しはない。


写真 ●にのみや・せいじゅんプロフィール
1960年、愛媛県生まれ。
当代きっての論客スポーツジャーナリストとして
新聞、雑誌、ラジオ、テレビなどで幅広く活躍。
主な著書に『人を動かす勝者の言葉』『1ミリの大河』
『スポーツ名勝負物語』『最強のプロ野球論』
『勝者の思考法』『「超」一流の自己再生術』など多数。
http://www.ninomiyasports.com



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